SHIMANE UNNAN-CHALLENGE

これまでの雲南市(雲南市ブランド化プロジェクト)

人の幸

第2回 井谷伸次さん

紙すきをやめるその時まで
井谷伸次。雲南市三刀屋町上熊谷にある斐伊川和紙7代目。高校卒業後、79年に家業であった斐伊川和紙に入門。父・岩夫さんに師事し、94年に7代目を襲名。2度の日本民藝館展「奨励賞」を経て、2008年には「協会賞」も受賞。卓越した技術で創造される、質の高い、美しい作品は全国的に高く評価されている。
斐伊川和紙の起源 -木次紙の存在を後世に、斐伊川流域での和紙づくり-
-斐伊川流域(雲南市内)の紙すきの歴史について教えてください。

江戸時代中期にもっとも盛んに行われていました。木次町槻之屋から三刀屋町上熊谷にかけ、流域沿いに約400件もの紙屋が並んでいたそうです。
松平不昧公の頃には、木次に問屋があったことから木次紙と呼ばれ、しじみなどとともに松江藩推奨の物産品とされ、藩の経済事情が厳しい折には、その助けにもなっていたようです。
-初めは木次紙といわれていたんですね。では、斐伊川和紙と呼ばれるようになったのは?
木次紙といわれた和紙は、いわゆる出雲和紙のことです。それを、昭和40年ごろに私の父(岩夫さん76歳)が、出雲斐伊川和紙と名づけました。この地域で盛んに紙すきが行われていたことを後世に伝えるとともに、産地の名称を残したいとの思いからです。
私の代になり、斐伊川和紙としての呼び名が浸透してきましたが、気持ちの中では、出雲地方の斐伊川和紙であると思っています。

斐伊川和紙の特徴 -3種の原料を巧みに配合するブレンド力-
-斐伊川和紙の特徴はなんでしょうか?

斐伊川和紙の特徴を話す井谷さん和紙の原料となる楮(こうぞ)ですが、斐伊川和紙では原種に近いものを使っています。また、出雲和紙(斐伊川和紙を含む)は、俗に表の紙と呼ばれ、襖(ふすま)などの表装を行う場合、表面の加工に用いられることが多いようです。
しかし、斐伊川和紙の最大の特徴をあげるなら、ブレンド力と言えるでしょう。父の代から研究・実践しているもので、和紙の原料となる楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)をブレンドして和紙を作っています。楮と三椏のブレンドは珍しいでしょうし、雁皮と楮の混合は難しいです。異産地の楮同士の混合も試し始めたところです。

-ブレンドすることで、どんな効果が得られますか。
例えば、石垣を築く際、大きな石を積み上げた隙間に小さな石を詰めます。大きさの違う石を組み合わせ、石垣を補強するわけですが、和紙づくりでも、異なる原料(繊維)をブレンドすることで強いものができると考えています。その他、滑らかなもの、扱いやすいものなど、紙の質を変えることもできるんです。
つまり、原料の配合具合を変えながら、用途に適した和紙をつくり出すことができるというわけです。

和紙の魅力を知らない世代に対して -本質への評価は、いつの時代も普遍的-
-和紙の魅力を知らない世代が増えてきていると思いますが、そのことについて何かお考えですか。

和紙自体に魅力がなくなったわけではなく、和紙に触れていない、見たことがない人たちが増えているのだと思います。
先日東京で物産展を行いましたが、20代の若者たちが、和紙を「すごーい」「きれい」と評価し、和紙製のブックカバーなどの小物を購入してくれました。10年くらい前は、和紙のよさは分かる人にしか分からないと思っていましたが、決してそうではない事が分かりました。実物を見て、ふれてもらえれば、たくさんの人に和紙のよさは伝わると思います。
近年、パルプや化学繊維を使用した洋紙でも和紙のような質感を出せるようになってきています。強度や耐久性もあり、機械で大量生産するので価格的にも安価です。一方、和紙には独特の美しさがあり、不思議と心に安らぎを与えてくれます。
私たちの心の中には、長い歴史の中で培われた和のセンサーが備わっています。時代に応じ、物事の価値観は変化するかもしれませんが、本物はいつまでも評価されるのではないでしょうか。

豊かな暮らしの提唱 -ひと手間かけることと、遊び心を大切に-
-和紙をどんな風に使ってほしいですか。

暮らしの様々な場面で、工夫して活用してもらいたいです。
和紙を貼った障子のある家が少なくなってきましたが、窓に和紙製のロールスクリーンを下げたり、壁紙に和紙を用いたりして住空間を創造することが考えられます。天然素材に囲まれた生活は、心に豊かさを与えることでしょう。
また、手紙を送る際、便箋として和紙を使用してみるのもよいでしょう。和紙の手紙は、いつもと少し雰囲気が違い、もらった方も嬉しいでしょうし、送る側も一生懸命に、丁寧に文字を書くので、気持ちがよく伝わります。最近はパソコンで文章を作成し、印刷しますが、印刷用紙に和紙を使えば、洋紙に比べぐっと趣が増してきます。
他にも、かばんやクッションなど、和紙本来の用途でないものに転用することも可能です。
もちろん耐久性という面では、布や革には及びませんが、ちょっとした驚きや新鮮さを感じることができるでしょう。



要するに、洒落っ気や遊び心を持ちながら、和紙の特性を楽しんでもらいたいということです。ひと手間加えることで、ずいぶんと暮らしが豊かになると思います。

日本民藝館展「協会賞」受賞について
-島根県で受賞しているのは斐伊川和紙を含めると3件しかない価値ある賞だと思いますが、受賞の感想を聞かせてください。

民藝館賞には、陶芸、漆、ガラスなど様々なジャンルから作品が2,000点近く出展されますが、今回それらの中で次席となる「協会賞」をいただきました。
過去に2度奨励賞を受賞した経験からも分かりますが、同賞では、健康的で素朴かつ美しいものが評価されています。機能性をとことん追及した結果として、自然に現れる美しさとでもいうのでしょうか。決してごまかすことのできない物の本質が評価される賞だと思っていますので、大変嬉しく思っています。
※父・岩夫さんも、79年に同展の最高位となる館長賞を受賞されており、斐伊川和紙は非常に高い評価を受けています。

今後の展望 -紙すきをやめるその時まで-
-最後に、今後の目標をお聞かせください。

この仕事を継ごうと思ったのは、高校3年生の時です。はじめは「家業だから」という漠然とした気持ちでいましたが、ちょうどその頃、父が日本民芸館長賞を受賞。父の偉大さに気づき、以来修行を重ね、一定のレベルを習得するのに約15年かかりました。
今回、協会賞をいただいたこともあり、技術的な面は概ね習得できたと感じています。生意気に思われるかもしれませんが、自信を持っていなければ能力を最大限に発揮した、いい仕事もできませんからね。
一方、精神面はまだまだ。こちらは歳をとり、紙すきをやめる時まで、磨いていくことになるでしょう。

井谷さんは「分かりにくい表現で申し訳ありませんが・・・」と恐縮しながら、表に現れる技術がどんなに高くても、精神が伴わなければ、すばらしい和紙はすけないと話します。
最後は「『技術は、人がつくる』といいますが、今後は、たくさんの人と出会い、プレッシャーのかかる仕事をいただきながら、精神鍛錬に励みたいと思っています」と力強く話してくださいました。

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